
夕暮れの湖に、あなたはひとり立っている。
風はほとんどなく、
湖面は鏡のように静かで、
世界の輪郭だけが淡く映っている。
あなたはゆっくりと湖へ足を踏み入れる。
冷たさはなく、
まるであなたを知っているかのような温度で
やさしく迎え入れてくれる。
胸の奥でふっと、
オレンジ色の灯りが生まれる。
それは太陽が沈む直前のような温かさで、
強く主張しないのに、
存在そのものがまわりを照らす光。
あなたは湖の中央まで進み、
その灯りをそっと湖面へ向ける。
すると湖は拒まず、
押し返すこともなく、
静かにその光を受け入れる。
光はゆっくりと湖の中へ溶けはじめ、
あなたの輪郭と湖の境界が曖昧になっていく。
ふと気づく。
湖が光を取り込んでいるのではない。
光そのものが「あなた」で、
湖はあなたをまるごと抱いている。
あなたが抱えてきたもの、
まだ言葉にならない感情、
立ち止まってしまった日々、
願いきれなかった想い。
すべてを拒まず、
すべてを否定せず、
すべてを受け入れて
湖はあなたとひとつになる。
水面からも、
湖底からも、
周囲の山影からも、
オレンジ色の柔らかな反射が生まれていく。
あなたはそこでようやく理解する。
“受け入れているのは湖だけじゃない。
世界が、
そして何より自分自身が、
自分を受け入れ始めている。”
灯りは消えない。
湖とともに、
ゆっくりと、
深く、
存在し続ける。


